虚無
★★★★★ 2023年7月に訪問
2020年の新ファンタジーランド計画のメインコンテンツがこの「美女と野獣“魔法のものがたり”」(以下まほもの)。『美女と野獣』(91)の世界をファンタジーランドの一部として展開しており、3年経った今でも主力アトラクションとして宣伝されている。劇団四季とのセットなんかなかなか良いのでは。しかし、私はこのアトラクションが好きではない。
皆さんはトラックレスライドをご存知だろうか。「プーさんのハニーハント」や「アクアトピア」、そしてこの「まほもの」にはトラックレスライド採用されている。軌道(トラック)がない(レス)ライドシステムを指す言葉である。トラックレスの利点は箱に対して360度視点を向けられる点と縦横無尽に乗り物が移動できる点が挙げられる。これは従来のオムニムーバーが「ゲストに見せたいものを見せる」手法であったのに対して、トラックレスは「ゲストが見たいところを見れる」ようになったことを意味している。またオムニムーバーは常に流れていくのが重要であるのに対してトラックレスは止まるも進むも回るも自由である。トラックレスは流行りのシステムだが実はかなりハードルが高い。視点移動がシームレスな分、一つの部屋に見せ場を散りばめなければならない。それに、予測不能な動きにはそれなりの理由付けが必要になる。「プーさんのハニーハント」は“おおあらし”のシーンをダイナミックに表現した後、ズオウとヒイタチによる夢の中のクラクラする世界を予測不能な動きと数多くの仕掛けで描いて見せた。トラックレスの面白みを十分に押さえた模範的なライドといえる。それを踏まえるとこの「まほもの」はしょっぱい出来に留まっている。
まずはキューラインを紹介したい。お城はかなり満足。橋が架かっていて霧が立ち込めている。新ファンタジーランドの奥に位置していて、USJのホグワーツ城のようにアクセスの悪さを映画の設定でカバーしているのでとても良いと思う。しかし、城内に入ってみると様子がおかしい。何様式か全くわからないのだ。さらに窮屈感がある。ひどい。2枚目の写真を見てほしい。火がカーテンに燃え移りそうである。さらに3枚目。この物体はなんなのか。逆スペースマウンテンとでも呼ぶことにしようか。柱を建てるつもりが叶わなかったような、そんな背景を感じる。このぎちぎち感がなんとも言えない微妙な感じを醸し出している。
プレショーはかなり完成度が高い。野球の前の柵こそ気にはなるが、精巧なAAによる掛け合いは目を見張るものがある。
そして本編。これがなかなかボナペティとは言えない。しょっぱい。
ゲストは先ほど紹介したいトラックレスのシステムで進んでいくでかいティーカップに乗ることになる。座席が湾曲していて反対側の席の人とたまに目があったりする。カップ自体も動くので酔いやすい方は注意が必要。
乗車するとまずはパーク内でめちゃくちゃ使われている「ひとりぼっちの晩餐会」のシーンに突入する。部屋の真ん中に長机が用意され、ライドが視点を別の方に向けている際にくるっと回転し豪華な料理が配置される。仕掛けとしてかなり面白い。が、肝心の視点誘導先が弱い。食器風の液晶に微妙に動く皿とカトラリーを眺めるだけというなんとも言えない虚無を見せられる。タメなのだとしても弱すぎる。
次の部屋がもっとひどい。悪名高き「愛の芽生え」のシーンだ。ゲストはベルと野獣が歌っている場面を目撃することになるが、スケートをしているということらしくずっとぐるぐる回り続ける。集中してAAを見ることができないのだ。さらに周りにはこれといった見せ場はなく何もない壁や申し訳なさ程度の枯れ木を見るしかないのだ。それに8分間のライド中2分ほどこの部屋に収容される。虚無の中を回り続けるとだんだん「ここから一生出れない」と悟るようになる。終身刑を食らったベルを追体験できるのだ。いや、そんなのいらないよと思っていると急展開が起きる。
物語が次々と展開していくシーンに進む。野獣の城が襲撃されるシーンを廊下のちょっとした仕掛けだけで紹介している。先ほどに比べて幾分テンポが速いが完全にトラックレスライドである必要性を欠いているシーンといえる。なんならトラックレスにしたことでティーカップが鬩ぎ合い、運が悪ければ遠くから眺めなければならなず、結果的に体験の不平等感が露わになってしまっている。これならオムニムーバー風であるにもかかわらず停止する「モンスターズ・インク〜」のシステムの方が妥当性を感じてしまう。とはいえやはり野獣が人間に戻るシーンは素晴らしい。ここだけのために並ぶ価値は十分にあるといえる。
そしてラストは「美女と野獣」のシーン。ここは先ほどの「愛の芽生え」とやっていることは同じで舞踏会に参加している風にベルの周りをひたすら回り続ける。周りには人間に戻った野獣の従者たちが勢揃いしている。360度の視点がしっかり表現されているが回り続けるというのが少し惜しい。予測不能な動きというよりは規則的な動きで驚きはない。ただ優雅な気持ちで身を任せるしかないのだ。このシーンは虚無感は大分少ないが少し長いので虚無であることには変わりない。
一貫してトラックレスの面白みとはミスマッチと言わざる負えないのが現状の「まほもの」だが、映画好きは行って損はないと思う。虚無な時間に耐えれる人も多くいると思うので一度はぜひ。
皆さんはトラックレスライドをご存知だろうか。「プーさんのハニーハント」や「アクアトピア」、そしてこの「まほもの」にはトラックレスライド採用されている。軌道(トラック)がない(レス)ライドシステムを指す言葉である。トラックレスの利点は箱に対して360度視点を向けられる点と縦横無尽に乗り物が移動できる点が挙げられる。これは従来のオムニムーバーが「ゲストに見せたいものを見せる」手法であったのに対して、トラックレスは「ゲストが見たいところを見れる」ようになったことを意味している。またオムニムーバーは常に流れていくのが重要であるのに対してトラックレスは止まるも進むも回るも自由である。トラックレスは流行りのシステムだが実はかなりハードルが高い。視点移動がシームレスな分、一つの部屋に見せ場を散りばめなければならない。それに、予測不能な動きにはそれなりの理由付けが必要になる。「プーさんのハニーハント」は“おおあらし”のシーンをダイナミックに表現した後、ズオウとヒイタチによる夢の中のクラクラする世界を予測不能な動きと数多くの仕掛けで描いて見せた。トラックレスの面白みを十分に押さえた模範的なライドといえる。それを踏まえるとこの「まほもの」はしょっぱい出来に留まっている。
まずはキューラインを紹介したい。お城はかなり満足。橋が架かっていて霧が立ち込めている。新ファンタジーランドの奥に位置していて、USJのホグワーツ城のようにアクセスの悪さを映画の設定でカバーしているのでとても良いと思う。しかし、城内に入ってみると様子がおかしい。何様式か全くわからないのだ。さらに窮屈感がある。ひどい。2枚目の写真を見てほしい。火がカーテンに燃え移りそうである。さらに3枚目。この物体はなんなのか。逆スペースマウンテンとでも呼ぶことにしようか。柱を建てるつもりが叶わなかったような、そんな背景を感じる。このぎちぎち感がなんとも言えない微妙な感じを醸し出している。
プレショーはかなり完成度が高い。野球の前の柵こそ気にはなるが、精巧なAAによる掛け合いは目を見張るものがある。
そして本編。これがなかなかボナペティとは言えない。しょっぱい。
ゲストは先ほど紹介したいトラックレスのシステムで進んでいくでかいティーカップに乗ることになる。座席が湾曲していて反対側の席の人とたまに目があったりする。カップ自体も動くので酔いやすい方は注意が必要。
乗車するとまずはパーク内でめちゃくちゃ使われている「ひとりぼっちの晩餐会」のシーンに突入する。部屋の真ん中に長机が用意され、ライドが視点を別の方に向けている際にくるっと回転し豪華な料理が配置される。仕掛けとしてかなり面白い。が、肝心の視点誘導先が弱い。食器風の液晶に微妙に動く皿とカトラリーを眺めるだけというなんとも言えない虚無を見せられる。タメなのだとしても弱すぎる。
次の部屋がもっとひどい。悪名高き「愛の芽生え」のシーンだ。ゲストはベルと野獣が歌っている場面を目撃することになるが、スケートをしているということらしくずっとぐるぐる回り続ける。集中してAAを見ることができないのだ。さらに周りにはこれといった見せ場はなく何もない壁や申し訳なさ程度の枯れ木を見るしかないのだ。それに8分間のライド中2分ほどこの部屋に収容される。虚無の中を回り続けるとだんだん「ここから一生出れない」と悟るようになる。終身刑を食らったベルを追体験できるのだ。いや、そんなのいらないよと思っていると急展開が起きる。
物語が次々と展開していくシーンに進む。野獣の城が襲撃されるシーンを廊下のちょっとした仕掛けだけで紹介している。先ほどに比べて幾分テンポが速いが完全にトラックレスライドである必要性を欠いているシーンといえる。なんならトラックレスにしたことでティーカップが鬩ぎ合い、運が悪ければ遠くから眺めなければならなず、結果的に体験の不平等感が露わになってしまっている。これならオムニムーバー風であるにもかかわらず停止する「モンスターズ・インク〜」のシステムの方が妥当性を感じてしまう。とはいえやはり野獣が人間に戻るシーンは素晴らしい。ここだけのために並ぶ価値は十分にあるといえる。
そしてラストは「美女と野獣」のシーン。ここは先ほどの「愛の芽生え」とやっていることは同じで舞踏会に参加している風にベルの周りをひたすら回り続ける。周りには人間に戻った野獣の従者たちが勢揃いしている。360度の視点がしっかり表現されているが回り続けるというのが少し惜しい。予測不能な動きというよりは規則的な動きで驚きはない。ただ優雅な気持ちで身を任せるしかないのだ。このシーンは虚無感は大分少ないが少し長いので虚無であることには変わりない。
一貫してトラックレスの面白みとはミスマッチと言わざる負えないのが現状の「まほもの」だが、映画好きは行って損はないと思う。虚無な時間に耐えれる人も多くいると思うので一度はぜひ。
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